3.1内服困難な場合

高齢者は飲めないことも多いです

いよいよ具体的な薬剤の解説です。「5つの作用」に沿えば何も難しいことはありません。パズルをはめるように最適な薬が分かってきます。まずは、全体を俯瞰し、個々の薬剤の解説、使用方法は次項以降で解説していきます。

 
夜間の薬ですから、催眠作用のある薬剤が選択されます。薬を使う順番で見たとおり、先行投与する薬剤が必要ですが、注射の場合は(D2)しかありません。ハロペリドールが最も有用です。これに(H1)や(ω)を加えていくことになります。

ポイント1 長期に備えてハロペリドール(D2)は必要最小量

内服困難な場合、とくに高齢者は1週間以上の長期にわたることも少なくありません。今回の(D2)≒抗精神病薬を最小限にしたせん妄対策を実施していても、当院では28%1)の方はハロペリドールが1週間以上必要でした。いつ飲めるかは不明確なため、ハロペリドールを0.5ml(2.5mg)以上を指示するのはリスクが高いことなります。
 
一般病棟ではせん妄と不眠が必ずしも区別されない場合もありますので、その上でも継続使用を念頭に置いた指示が安全です。

ポイント2 催眠は(H1)を主剤に。BZ作動薬はできれば使用しない

注射のBZ作動薬は、ミダゾラム(ドルミカム)やフルニトラゼパム(ロヒプノール、サイレース)、ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)などになります。慣れている医師・看護師が使用すれば十分安全ですが、院内すべての医師(研修医含む)・看護師に精通することを求めるのは現実的ではありません。

ポイント3 (H1)を十分量、繰り返し使う

夜の薬は眠るまで使う、ですから、足りなければ十分繰り返しで使いましょう。基本的にはBZ作動薬と異なり呼吸抑制がきませんので、看護師さんに上限まで繰り返し使うように 促すことがポイントです。今回取り上げた薬は、基本的には効果不十分なら1時間後追加の指示で良いと思われます。

ポイント4 (H1)で難しければ、(ω)の併用

H1だけではどうしても眠るのが難しい方もいらっしゃいます。ある程度増量しても入眠が得られない場合は、(ω)であるBZ系作動薬に催眠作用の補助をお願いしましょう。
 
催眠作用の強い抗ヒスタミン薬であるプロメタジン(ヒベルナ)注の採用がない場合、ヒドロキシジン(アタラックスP) やd-クロルフェニラミン(ポララミン)では催眠作用が弱く効果が十分えられないこともあります。
 
また、第2選択に挙げているクロルプロマジン(コントミン)の使用が躊躇される場合、最初から(D2)+(ω)で行うのも十分選択肢の一つとなります。
 

最終更新日2016.3.6
初出2016.3.3



1)当院での調査。H24.4月~12月の8ヶ月間、全107例の介入のうち、45例がハロペリドール使用、うち13例(28%)が1週間以上の使用でした。
参考文献(薬剤共通)
Stephen M. Stahl著 仙波純一,他監訳.ストール精神薬理学エセンシャルズ 第4版、メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
神庭重信監修. カプラン精神科薬物ハンドブック第5版、メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
長嶺敬彦. 予測して防ぐ抗精神病薬の「身体副作用」、医学書院, 2009
上村恵一 他編.がん患者の精神症状はこう見る抗精神病薬はこう使う:じほう, 2015
小川朝生: 自信が持てる!せん妄診療はじめの一歩. 羊土社, 2014
David M. Gardner, Ross J..Baldessarini, Paul Waraich. Modern antipsychotic drugs: a critical overview. CMAJ. 2005;172; 13:1703-11.
和田 健. せん妄の臨床 リアルワールドプラクティス. 新興医学出版社, 東京, 2012