1北風と太陽作戦

八百屋さんに肉を売ってもらうには

ここからは個別の対応ではなく、院内でどうやってせん妄対策を進めていくか、我々の経験をお伝えしていきます。
 
肉屋と八百屋で触れたとおり、院内せん妄対策には、非専門家に非専門の薬剤を使ってもらう難しさがあります。正しい知識の普及は進めるのは当然ですが、それぞれの専門家は非専門であるせん妄にまで手を回す余裕が少ないのも現実です。


その一方で、せん妄治療では抗精神病薬、注射のBZ作動薬など、不適切に使用するとQOL低下、副作用による生命の危険(抗精神病薬の嚥下障害による誤嚥、BZ作動薬による呼吸抑制)などを引き起こしかねない薬剤が第一選択的に使用されています。 どうしても、八百屋さん(一般の診療科)に肉(=慣れない薬)を売ってもらうことも必要になるわけです。
 
これらをクリアするための仕掛けも、フールプルーフせん妄対策には含まれています。
 
専門外になりますから、必ずしもモチベーションが高いわけではない、しかし早く行動を変えてもらうための方法は、二つです。
 
強制(北風)または成功体験を持ってもらう(太陽)です。
 

北風は?

せん妄対策は、治療の安全な遂行を通じて患者さんの生命を守ることにつながります。また、平均入院期間の増大・事故による余分な医療の追加、医療スタッフの疲弊など病院態勢にも影響します。そのため、慣れない現場の自由裁量に委ねるのも無責任です。北風も必要となります。
 
院内で「北風」となるのは、医療安全部門です。医師には裁量権と専門性があるため、治療内容に部外者が立ち入ることはあまり適切ではありません。しかし多くの病院で、医療安全部門は医師に強制力をもって物事を進めることができる、唯一の部門です。
 
「院内のせん妄対策を開始する」「ある患者さんに介入開始する」の二点については、医療安全部門との連携が効果的です。
 

太陽は?

現場はそれぞれの専門性の治療を行っています。治療の高度化・安全対策の重視などから、業務量は飛躍的に増えています。その上で「業務をさらに増やす」のはとても難しいことです。そして、ハロペリドールリスペリドンで見たとおり、よく使われる薬は「効かない」と実感されてしまうことが多いのが現状です。これでは、現場が北風によって硬く心を閉ざしかねません。
 
簡単で効果的、これが対策を広く浸透させていくのに必要なもう一つの要素です。フールプルーフせん妄対策がどんな意図を持って設計されているか、次の項目で見てみましょう。
 

ポイント 医療安全部門との連携がカギです

 

 
最終更新日2016.3.11