3.2夜の注射薬(1)
ハロペリドール+プロメタジン(ヒベルナⓇ)
では、1st. lineのトップバッターです。(D2)+(H1)の典型例ですね。
ハロペリドール(セレネースⓇ・リントンⓇ)+プロメタジン(ヒベルナⓇ)は強い興奮を伴わないせん妄1)、精神科領域の興奮2)に有用とされています。
プロメタジンはどんな薬?
抗ヒスタミン薬では、ヒドロキシジン(アタラックスPⓇ)が有名で頻用されますが、おそらく「ぐっすり眠る薬」という印象はあまりないはずです。その点、プロメタジンは適応として「人工冬眠」(聞き慣れない言葉ですが、昔の精神疾患の治療法としてあげられていました)に使うくらいの薬効があります。
また、プロメタジンは最強の催眠薬であるベゲタミンⓇにも配合されています。もう少し身近なところでは、かぜ薬のPL顆粒Ⓡにも配合されています。
この組み合わせは、ハロペリドールを至適量の0.3mlで使用すれば血圧や呼吸にほとんど影響せず、特に全身状態の低下した場合に有用です。
注意する点は?
欠点としては、プロメタジンは作用時間が長いので、遷延しがちであることが挙げられます(特にCYP代謝ですので、両者とも肝機能の影響を受けやすい)。
頻用されているヒドロキシジンの催眠作用は弱いため、95才以上の超高齢者や中等度以上の肝障害で、プロメタジンの代用とするのがよいと考えられます。
どう使うの?
具体的な使用量としては、ハロペリドール0.3ml(1.5mg)+プロメタジン0.3ml(7.5mg)が良いと思われます。
遷延のリスクを少しでも減らすため、特に支障がなければ夕食後に使用するのがよいでしょう。こうすることで、追加使用の時間的余裕をうむことができます。
緩和ケア病棟の重症患者さんでも、比較的効果があり、それほど遷延の率も高くないという容量設定です。ちなみに、PL顆粒Ⓡ1包のプロメタジンは12.5mgで、おおよそ注射の5mg程度に相当します。そう考えると、それほど強力ではないことが実感できると思います。ただ入院・高齢患者さんでは、この量でも十分過ぎることもありますので、開始量は7.5mgで設定しました。
ハロペリドールもプロメタジンも皮下注射の適応ですが、50mlの5%ブドウ糖液や生理食塩水に希釈して30分程度で点滴静注するのも良いと思われます。
かぜ薬と大差ない用量ですから、足りない場合は当然あります。その場合は、0.3mlずつ追加して使用するのがよいでしょう。指示としては、1時間おきに追加してみるのはいかがでしょうか。ハロペリドールは十分量投与していますので、追加指示はプロメタジンのみでかまいません。
プロメタジンのはっきりした上限はわかっていませんが、100mg程度(4ml)の使用報告があるようです。1~2ml(25~50mg)程度は十分許容されると考えられますので、この対策では0.3ml3回、おおよそ1mlまでを目安としています。
ポイント1 ハロペリドール+プロメタジンは安全に、一定の入眠効果が期待できる。
ポイント2 1時間後に追加使用。前日の投与量を元に定期の使用量を見直し。遷延するなら減量。
(補足)プロメタジン自体は抗コリン作用もあるため、単独ではせん妄の原因となります。これはBZ作動薬も同一であり、どちらがせん妄へのリスクが高いかは分かっていません。そのため、両者ともハロペリドールとの併用を行うのが前提条件です。BZ作動薬には呼吸抑制などの重篤なリスクがありますので、プロメタジンのほうが総合的に見て安全性は十分に高いと思われます。
最終更新日2016.3.7(軽微な修正)
初出2016.3.3
1)日本総合病院精神医学会薬物療法小検討委員会. せん妄の治療指針.星和書店, 2005
2) Huf G, Alexander J, Allen MH, Raveendran NS.Haloperidol plus promethazine for psychosis-induced aggression.Cochrane Database Syst Rev. 2009 (3), CD005146, DOI:
参考文献(薬剤共通)
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神庭重信監修. カプラン精神科薬物ハンドブック第5版、メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
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上村恵一 他編.がん患者の精神症状はこう見る抗精神病薬はこう使う:じほう, 2015
小川朝生: 自信が持てる!せん妄診療はじめの一歩. 羊土社, 2014
David M. Gardner, Ross J..Baldessarini, Paul Waraich. Modern antipsychotic drugs: a critical overview. CMAJ. 2005;172; 13:1703-11.
和田 健. せん妄の臨床 リアルワールドプラクティス. 新興医学出版社, 東京, 2012