2.1 5つの作用

せん妄の薬を理解する

5つの作用

 
せん妄に対する薬物療法は、大きく分けるとこの5つの作用を利用しています。この作用を理解すると、それぞれの薬がどんなときに効くのか、効かないのかがはっきり見えてきます。
 

1)ドーパミン2(D 2)受容遮断作用

抗精神病薬の中心的な作用で、幻覚や妄想を抑えます。そもそも、抗精神病薬は統合失調症の幻覚・妄想を抑えるために開発されています。ですので、せん妄を治す薬剤ではありません。また、ドーパミン受容体を強く遮断しすぎると錐体外路症状などの副作用が出てしまいます。→ハロペリドールの真実
 

2)α 遮断作用

α受容体の遮断は、鎮静作用をもたらす一方で、血圧低下作用があります。
 

3)セロトニン(5TH) 2A、5TH 2C遮断作用

5TH2Aや5TH2C受容体遮断は意欲改善、睡眠を深める作用があります。また、上記の副作用である錐体外路症状を軽減する作用も知られています。2A, 2Cの違いは、2Cのほうがより睡眠に関わる程度の理解でよいでしょう。せん妄改善効果もあるもされています(錐体外路症状を抑えるだけではなく、一部では(D2)に関わることが知られています。)
 
5TH2Aまたは5TH2C遮断作用をもつ薬剤には、非定型抗精神病薬(リスペリドン(リスパダール)、クエチアピン(セロクエル))や抗うつ剤(トラゾドン(レスリン・デジレル)、ミアンセリン(テトラミド)など)があります。
 
今回のせん妄対策でも中心的な役割の一つを果たす作用です。
 

4)抗ヒスタミン(抗H 1)作用

ヒスタミン受容体のうち、H1受容体遮断は催眠作用(眠気)が生じます。風邪薬の眠気と同じです。催眠作用は脳機能を低下させるためせん妄の悪化(原因)にもつながります。
 

5)ベンゾジアゼピン受容体(ωオメガ受容体)作動薬

作用は、催眠、抗不安、筋弛緩です。筋弛緩があるため、睡眠薬にはふらつきの副作用があります。筋弛緩作用は痙攣薬としても利用されますが(ジアゼパムなど)、一般に病棟では転倒の原因になります。また、呼吸抑制の副作用はよく知られているところです。
 
このサイトでは、BZ作動薬とも表記します。
 
では、いくつかの薬を例に、この作用がどうなっているのかをみていきましょう。
 

最終更新日2016.2.29



参考文献(薬剤共通)
Stephen M. Stahl著 仙波純一,他監訳.ストール精神薬理学エセンシャルズ 第4版、メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
神庭重信監修. カプラン精神科薬物ハンドブック第5版、メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
長嶺敬彦. 予測して防ぐ抗精神病薬の「身体副作用」、医学書院, 2009
上村恵一 他編.がん患者の精神症状はこう見る抗精神病薬はこう使う:じほう, 2015
小川朝生: 自信が持てる!せん妄診療はじめの一歩. 羊土社, 2014
David M. Gardner, Ross J..Baldessarini, Paul Waraich. Modern antipsychotic drugs: a critical overview. CMAJ. 2005;172; 13:1703-11.
和田 健. せん妄の臨床 リアルワールドプラクティス. 新興医学出版社, 東京, 2012