ハロペリドールの真実
間違っていませんか、その使い方
ハロペリドール(セレネースⓇ・リントンⓇ)注は0.3ml=1.5mgが基本!
よく見る指示ですが、実はこの指示に落とし穴が潜んでいます。この量は、過量投与を招く危険な指示なのです 。
D2受容体は、約60~80%を遮断すると治療効果が得られ、それ以上だと錐体外路症状が出現します。 ハロペリドールは2~3mg(注射では1~1.5mg)でこの治療域に達することがわかってきました。1)
そのため、日常でよく利用されているハロペリドール注0.5~2アンプル(=2.5~10mg)は多すぎる可能性があります。精神科領域でも、これまでのハロペリドールの使用量は多すぎるのではないかという意見もではじめています2)。
せん妄においても、たとえば、注射1.5mgで十分治療効果があるとの報告3)、経口4.5mg(注射換算2.25mg)以上の使用は副作用のリスクが増大する4)などもあります。
錐体外路症状は一般診療科にとっては診断しにくいものの一つです。「仮面様顔貌」「無動」「無気力」などの言葉が書いてあれば誰でも診断できますが、実際には入院の高齢者の「不活発」ですので、当たり前の状況として見過ごされがちです。またアカシジア(静座不能症)も「入院患者さんがうろうろしておかしい=せん妄」なのでハロペリドール、と原因薬が投与されて余計に悪化することが決して希ではありません。
さらに、錐体外路症状が表立っていなくても、嚥下障害が生じていることがあり、特に高齢者には危険な副作用となります。
診断しにくい錐体外路症状は、起こさないことが一番の対策となります。
"不眠時"ハロペリドールは誤り
後ほど詳しく触れますが、「不眠時 ハロペリドール」は完全に誤った使い方です。ハロペリドールの鎮静作用は非常に弱く、上記の至適用量ではあまり期待できません。ほとんど寝ないはずの薬を寝るために使うことは、「効果がない」もしくは「過量使用になる」のどちらかになるのはむしろ当然のことです。
ではどう使えばよいか、それはフールプルーフせん妄対策の解説の中で見ていきます。
最終更新日2016.3.15(本文修正:下記参照)
1) de Haan, L., et al.Subjective experience and D2 receptor occupancy in patients with recent‒onset schizophrenia treated with low‒dose olanzapine or haloperidole:A randomized, double‒blind study. Am J Psychiatry 2003 ;160: 303‒309
2)大森哲朗. 統合失調症の薬物療法—新規薬は本当に優れているのかー. 精神経誌 2013;115: 7: 774-781
3) Kalisvaart KJ, de Jonghe JF, Bogaards MJ, et al. Haloperidol prophylaxis for elderly hip-surgery patients at risk for delirium: a randomized placebo-controlled study. J Am Geriatr Soc. 2005
4) Lonergan E, Britton AM, Luxenberg J. Antipsychotics for delirium. The Cochrane Collaboration. The Cochrane Library. 2009; 1:1–117.