4.2夜の内服薬(1)

トラゾドン(レスリン・デジレル

夜の内服薬に一番にお勧めするのはトラゾドン(レスリン・デジレル)です。糖尿病禁忌のクエチアピンは、第一選択としては今ひとつです。比較的多くのの方が他の選択肢を使わなければならないなら、最初からそちらを第一選択にした方がよいと考えます。

トラゾドンはどんな薬?

三環系、四環系でもない抗うつ薬ですが、効果が弱くてほとんど忘れられている薬です。….じゃあダメダメ、ではなく、抗うつ薬の作用が弱いので副作用も弱いことになります。ほとんど気にする必要がありません。しかし、(5TH2A)(5TH2C)の作用はしっかり持っているので、BZ作動薬と異なり、深睡眠を増やして自然な睡眠に近づけます。筋弛緩作用による転倒リスクが少ないがないのも有利な点です。
 
作用時間も8時間くらいとぴったりなので、全高齢者への睡眠薬の安全な代替薬となります1)。世界のトラゾドン処方量の半数はこの目的とも言われています。つまり、仮にせん妄ではなくても、あるいはせん妄が治まった後でも、継続していても問題がおきにくいことになります。夜間に十分眠れることは、せん妄ハイリスクの方が多い入院環境においてはプラスにも働きますので、あるいは好ましい場合もあるでしょう。
 
また、小規模な研究ですがせん妄も抑える効果も報告されているので2)、ガイドライン等3)でもせん妄への薬剤としてあげられています。 
 
また、活動性が落ちてしまう低活動性せん妄は診断自体が難しいですが、こちらには抗精神病薬(D2)などは基本的に無効です。しかし、トラゾドンの(5HT2A, 2C)には意欲改善で低活動性せん妄にも効果があるのでは、とされています。

注意する点は?

抗うつ薬ではあるので希に抗コリン作用が出ます。感覚的には、100人使って1人くらいのイメージです。この薬は上限が200mgまでですが、そこまで増量すると抗うつ薬としても効いてくる感じです。なのでこの対策ではそこまでは増量せず、最大を100mgとしています。また、思ったより寝過ぎてしまう方もいますので、その場合は減量してください
 
他の抗うつ薬を飲んでいる場合の扱いはやや注意が必要となります。深刻なうつ病に対して使われている場合は、やはり専門医・精神科主治医と連携を取りながらが良いと思います。
 
ただ、そもそも抗うつ薬としては「効かない」薬なので、相加的な作用(問題)も少ないと考えられます。
 
重症な鬱ではない場合、SSRIなどは入院しなければならない高齢者では”きつい”ことも少なくないので、思い切ってトラゾドンに変更してしまうのも手かも知れません(離脱症状予防程度の内服)。
 
抗うつ薬・抗ヒスタミン薬全般の注意書きですが、コントロールされていない痙攣患者に使用する場合、痙攣の閾値を下げてしまう恐れがあります。

どうやって使う?

図の量から開始、適宜増減ですね。催眠効果は弱めで個人差があるので、しっかり追加使用で増量するのがぽんとです。最大効果は2時間後なので夕食後内服が良いですが、緩い効果なので追加はやはり1時間後でもOKです。
これまでの私の経験からは、100mg=4錠投与しても十分な入眠効果がない場合、それ以上増やしてもあまり有効ではないようです。その場合は、第二選択の薬剤に進みましょう。これを考えても、十分に追加投与を行い、1~2日で有効かどうかを判定するのは重要です。
 
高齢者にも副作用が少なく安全で、睡眠薬代用にも使える、せん妄にも効果があるとなると、使いやすい薬です。皆さんのところでも、機会があれば是非試して頂きたい薬剤です。 
 

ポイント1 作用が穏やかで安全性が高い。睡眠薬の代用にも使える

 

ポイント2 4錠(100mg)までは速やかに追加使用してみる 

 

最終更新日2016.3.9



1)高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2005, 日本老年医学会 編, メヂカルビュー社, 2005
2) Okamoto Y, Matsuoka Y, Ssaki T, et al.  Trazodone in the treatmet of delirium. J Clin Psychopharmacol 1999(19):280-282
3)日本総合病院精神医学会薬物療法小検討委員会. せん妄の治療指針.星和書店,  2005
 
参考文献(薬剤共通)
Stephen M. Stahl著 仙波純一,他監訳.ストール精神薬理学エセンシャルズ 第4版、メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
神庭重信監修. カプラン精神科薬物ハンドブック第5版、メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
長嶺敬彦. 予測して防ぐ抗精神病薬の「身体副作用」、医学書院, 2009
上村恵一 他編.がん患者の精神症状はこう見る抗精神病薬はこう使う:じほう, 2015
David M. Gardner, Ross J..Baldessarini, Paul Waraich. Modern antipsychotic drugs: a critical overview. CMAJ. 2005;172; 13:1703-11.
和田 健. せん妄の臨床 リアルワールドプラクティス. 新興医学出版社, 東京, 2012