3.4夜の注射薬(3)

ハロペリドール+ベンゾジアゼピン

注射のベンゾジアゼピンは、正しく使えば安全ですが、投与中にベッドサイドを離れるなどを行うと重大な医療事故につながります。そのため、フールプルーフせん妄対策では基本的に推奨しておりません。使用する場合には、安全を十分に確保できる環境での使用をお願いします。

 

フールプルーフせん妄対策では、可能な限りBZ作動薬を使わないことを原則とはしていますが、(D2)+(ω)は一般的な夜間の標準療法ですので、慣れている態勢ではむしろ好ましい場合もあります。また、(H1)だけでは眠れない場合には必須となりますし、これまで取り上げた薬剤の使用がしにくい環境もあるので、やはり大切な薬剤でもあります。

特に注射のBZ作動薬は、呼吸抑制が恐れられています。実際にそのような医療事故も後を絶ちません。しかし、鎮静の世界標準はミダゾラムですし、終末期でも死亡リスクをあげないこともコンセンサスとしてあります。

ベンゾジアゼピンが現場から恐れられる原因は?

このギャップは、一つに手術室でのミダゾラムの使い方を一般病棟で行ってしまったことなどがあるのではと考えています。手術室では呼吸が止まることを前提に、むしろ確実な効果を早く得られるために使用します。一般病棟より量が多くなることは避けられません。
 
個人差が大きいこともリスク要因です。ミダゾラムは0.2ml(2mg)ずつのワンショット静注などが行われることもありますが、0.2ml1回目で効果がなく、2回目で呼吸が止まった事例も存在します(有名な医療訴訟になりました)。その一方で、一晩に30アンプル使用しても寝ない方を経験したこともあります。
 
また、シリンジポンプで一定の速度で投与される場合も多いと思います。一般にBZ作動薬は入眠にはやや多めの量が必要ですが、睡眠の維持にはそれより少ない量で行えます。24時間持続鎮静を行う場合などは別でしょうが、夜間の使用の場合は、シリンジポンプで眠れるまで投与すると、かえってその後で過量になる場合があります。
 
このような使い方のミスマッチや、個人差の点をクリアしないと、確かに危険性を伴うのが注射のBZ作動薬です。

安全性を高める投与方法

使用する場合に念頭に置いていただきたいのは、BZ作動薬の呼吸抑制は、「起きているのに息が止まる」ことはないことです。つまりは寝れるために必要な適量を使い、過量にならなければよいのです。
 
これを実現する安全な投与方法は、十分希釈して眠れる量を最低限投与、その後は少しずつ追加することです。そこで、ミダゾラム(10mg)1アンプル+生理食塩水100mlがお勧めです。1mlが0.1mgなので、前述のように急に2mg→4mgのようなジャンプもなくなります。
 
ミダゾラムは効果発現時間がわずか30秒であり、この濃度であれば、急速投与(全開)でも、寝たら止めれば基本的に過量になりません。急速投与にするのは、この間絶対に患者のそばを離れてはダメだからです。10~20分つきっきりでというのは夜間の病棟では現実的ではありません。
 
つきっきりが絶対ですが、忙しい病棟で不安が残るようであれば、初回は0.5A+生食50mlにするのも二重の安全策です。仮に全量投与されてしまって呼吸に問題が起こっても、気道確保、必要に応じて呼吸補助にて回復しやすい量だからです(ミダゾラムの呼吸抑制は、呼吸中枢抑制より筋弛緩効果による気道の問題の要素が大きい)。
 
なお、効果発現時間がミダゾラムよりは遅いものの、フルニトラゼパム(ロヒプノールⓇ・サイレースⓇ)が使用される場合もあります。メリットはミダゾラムより醒めにくいので、継ぎ足し使用の手間が省けることですが、ミダゾラムよりゆっくり目に投与して、過量には十分注意する必要があります。
 
これら投与法に十分精通した看護師がそろっている病棟では、注射のBZ作動薬は十分に安全に投与できると思われます。

裏技〜緩和ケアの技法〜

注射のベンゾジアゼピン系はそうはいっても...の場合、とっておきの裏技があります
ベンゾジアゼピン系薬剤は脂溶性が高く、口腔粘膜を通過して直接吸収される傾向にあります(薬剤師さんに分配係数は?と尋ねてみてください)
 
何でもよいのですが、ロラゼパム(ワイパックス)やロルメタゼパム(エバミール)などを舌下投与することで、内服とほぼ同等の効果を得ることができます。口腔内崩壊錠については、局所に停留しないので今ひとつな印象です。
 
さらに、小児の検査時の鎮静などに使うブロマゼパム座薬(セニラン座薬)も選択肢となります。

さらに注意する点

長期使用で耐性つき易いのが欠点で、使用量がどんどん増えていくことがあります。特に、ミダゾラムは一晩で10管以上が必要になることもそれほど珍しくはありません。
 
催眠作用を(ω)だけに頼るとこうなりがちですので、(H1)にも登場してもらうのがよいでしょう。つまり、土台を(H1)で、調整を(ω)で行うようにすると、BZ作動薬の使用量を抑えることができ、呼吸抑制のリスクや耐性形成を抑制することができます。緩和ケア領域ではクロルプロマジン+ミダゾラムの組み合わせがよく行われています。
 
長期内服困難患者が増えている現代、やはりフールプルーフせん妄対策の原則とおり、第2選択以降に位置づけるのがよいと考えられます。
 

ポイント1 ミダゾラム1管を100mlで希釈して急速投与、寝たら止める。寝るまではそばを離れなければ安全に投与できる。

 

ポイント2 (D2)を先行投与することを忘れずに

 

最終更新日2016.3.6(図・本文を一部見直しました)
初出2016.3.3



1)日本総合病院精神医学会薬物療法小検討委員会. せん妄の治療指針.星和書店,  2005
2)小川朝生: 自信が持てる!せん妄診療はじめの一歩. 羊土社, 2014
 
参考文献(薬剤共通)
Stephen M. Stahl著 仙波純一,他監訳.ストール精神薬理学エセンシャルズ 第4版、メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
神庭重信監修. カプラン精神科薬物ハンドブック第5版、メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
長嶺敬彦. 予測して防ぐ抗精神病薬の「身体副作用」、医学書院, 2009
上村恵一 他編.がん患者の精神症状はこう見る抗精神病薬はこう使う:じほう, 2015
David M. Gardner, Ross J..Baldessarini, Paul Waraich. Modern antipsychotic drugs: a critical overview. CMAJ. 2005;172; 13:1703-11.
和田 健. せん妄の臨床 リアルワールドプラクティス. 新興医学出版社, 東京, 2012