3.3夜の注射薬(2)
クロルプロマジン(コントミンⓇ)
(D2)+(H1)の2nd. lineはクロルプロマジン(コントミンⓇ)となります。
クロルプロマジンは一番最初の抗精神病薬で、歴史があります。抗精神病薬としての(D2)はハロペリドールよりだいぶ弱く、歴史的には高用量を使わないと精神疾患には効かない、つまり高用量が基本なので副作用が強い薬、との印象を精神科の先生はお持ちなことが多いようです。
クロルプロマジンはどんな薬?
強い鎮静作用(H1)があり、プロメタジン(ヒベルナⓇ)が配合されているベゲタミンⓇにはクロルプロマジンも配合されています。精神疾患への効果を期待するのでなければ、少量で十分な催眠作用があります。この量であれば、副作用は精神疾患に使わるほどには目立ちません。(D2)が弱く(5HT2A)を持つことは、錐体外路症状のリスクが少ないことにもつながります。
ハロペリドール、プロメタジンと違って、グルクロン酸抱合による代謝であることも有利な点です。グルクロン酸抱合は肝不全の末期でもないかぎり保たれますので、遷延の恐れが少ない薬剤です。肝障害があるなら、ハロペリドール+プロメタジンに代わって最初からこちらを使うのもよいでしょう。効果もおおよそ6~10時間と、夜間の薬剤として適切です。
せん妄におけるクロルプロマジン
抗コリンがあるため避ける方が良いとの見解1)もある一方、クエチアピン(セロクエルⓇ)と受容体特性が非常に似通っており、せん妄対策でも有用とする見解もあります2-3)。
クエチアピンと比べると本当にそっくりなため、古い薬剤ではありますが、ハロペリドールに代表される定型抗精神病薬ではなく、むしろ非定型抗精神病薬に近い薬剤です。なお、非定型抗精神病薬と定型抗精神病薬の区分は厳密にはやや曖昧で、歴史やプロモーションなども絡んでいるそうです。
少量で使う場合には、せん妄の第一選択に挙げられているクエチアピンとの類似性を、もっと評価されてもよい薬剤であると私は考えます。
注意する点は?
(α1)がやや強いことが挙げられます。低血圧の副作用には留意が必要です。とはいっても、今回のような量であれば、緩和ケア病棟の患者さんでも安全に使えるくらいですので、恐れるほどではありません。連続モニターしていると、点滴後に一過性に110→90mmHg程度に下がることがある、といった具合です。念のため、心不全などでは少量から慎重に使用してください。
クロルプロマジンの使用方法
クロルプロマジンは注射と内服で(D2)の効力が3倍ちがいます。ハロペリドール注1.5mgはクロルプロマジン注50mg換算ですが、通常はもっと少ない量で入眠が得られます。そのため、ここでは12.5mg(25mg/5mlアンプル製剤 2.5ml)を開始量としています。
保険適応上は筋注製剤ですが、かつて同一成分であるウインタミン注Ⓡが発売されており、こちらは静注適応がありました。そのため、ハロペリドール+プロメタジンと同様に、希釈して30分ほどで点滴静注して使用されることも多い薬剤です。
夕食後に投与、1時間おきに寝るまで投与するのも一緒です。12.5mgを一単位とすれば、4回まで繰り返し可の指示にしておきます。
第2選択としてクロルプロマジンとBZ作動薬とどちらを使うかは、血圧を維持するのが重要か、呼吸抑制を避けたいのか、注射のBZに慣れている病棟か、なども判断基準となります。
ポイント1 クロルプロマジンはクエチアピン類似の作用があり、かなりの入眠効果が期待できる。
ポイント2 (α1)により低血圧の副作用には念のため注意
最終更新日2016.3.3
1)日本総合病院精神医学会薬物療法小検討委員会. せん妄の治療指針.星和書店, 2005
2)小川朝生: 自信が持てる!せん妄診療はじめの一歩. 羊土社, 2014
3)ackson KC, Lipman AG. Drug therapy for delirium in terminally ill patients. Cochrane Database Syst Rev. 2004; 2:CD004770.
参考文献(薬剤共通)
Stephen M. Stahl著 仙波純一,他監訳.ストール精神薬理学エセンシャルズ 第4版、メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
神庭重信監修. カプラン精神科薬物ハンドブック第5版、メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
長嶺敬彦. 予測して防ぐ抗精神病薬の「身体副作用」、医学書院, 2009
上村恵一 他編.がん患者の精神症状はこう見る抗精神病薬はこう使う:じほう, 2015
David M. Gardner, Ross J..Baldessarini, Paul Waraich. Modern antipsychotic drugs: a critical overview. CMAJ. 2005;172; 13:1703-11.
和田 健. せん妄の臨床 リアルワールドプラクティス. 新興医学出版社, 東京, 2012