5.6それでも危険なら

鎮静の検討

これまでの日中の薬剤は、覚醒した状態でせん妄の症状を軽減し、安全を保つことを目的としています。しかし、せん妄が身体疾患による意識障害である以上、対症的な薬剤で意識を正常な状況に保つことは不可能です。
 
原病の治療のためにも、そしてせん妄からくるご本人・ご家族の強い苦痛に対処する上でも、覚醒した状況で安全を保てないことはやはり存在します。
 
この場合の考え方は二つになります。

■原因の治療・改善可能性がある場合

医療安全を最優先に、間欠的鎮静を行います。具体的にはこれまで見た夜の薬剤を使用したり、ICUではデクストメトミジン(プレセデックス)を使用したりします。
 
鎮静の深度はICUの研究では浅めの方が良いとされています。しかし、軽い催眠作用はせん妄の増悪にもつながる恐れがあります。目的が医療安全ですので、ICUほど目が行き届かない一般病棟などでは、状況に合わせてちゃんと眠って頂くなど、深度調整をするのが良いと思われます。
 
いずれも、持続的に薬剤を使用するのではなく、必ず(最低1日1回)鎮静・催眠のための薬剤を中止して、せん妄が改善傾向にあれば鎮静以外の方法で対処を行います。

■原因の改善が困難な場合

終末期などで改善が困難な場合でも、可能な範囲で短期の間欠的鎮静を試みることが重要です。しかしせん妄により苦痛が強い、安全が保てないような場合には、持続的な鎮静が必要となります。この場合でも、できるだけコミュニケーションがとれるような浅めの鎮静から開始し、やむを得ないときのみ深鎮静の継続というスタンスと、鎮静が中断できないかどうかの繰り返しの検討が望まれます
 
終末期の鎮静については、日本緩和医療学会のガイドラインもご参照ください
 

(この項目は、B.ここから本番、せん妄対策に部分的に移動する予定です)



最終更新日2016.3.16



参考文献(薬剤共通)
Stephen M. Stahl著 仙波純一,他監訳.ストール精神薬理学エセンシャルズ 第4版、メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
神庭重信監修. カプラン精神科薬物ハンドブック第5版、メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2015
長嶺敬彦. 予測して防ぐ抗精神病薬の「身体副作用」、医学書院, 2009
上村恵一 他編.がん患者の精神症状はこう見る抗精神病薬はこう使う:じほう, 2015
David M. Gardner, Ross J..Baldessarini, Paul Waraich. Modern antipsychotic drugs: a critical overview. CMAJ. 2005;172; 13:1703-11.
和田 健. せん妄の臨床 リアルワールドプラクティス. 新興医学出版社, 東京, 2012