0.安全なせん妄対策とは

正しい治療から、現場の実情に合わせた対策へ

フールプルーフせん妄対策の基本概念

せん妄は全科共通、今晩の問題ですから、長期的な視点での正しい知識・治療の普及と、誰でもできる効果的な対策は別で考える必要があります。
 
正しい専門的知識をすぐに行き渡らせることは困難ですので、不都合が生じやすい対策は、いくら正しくても現場には最適ではありません。安全対策では、仮に間違っても大きな障害が起こりにくい対策「フールプルーフfoolproof(*) 」の考え方が大切になってきます。
 
 通常のせん妄治療でのハロペリドールの使用量は短期使用を前提としていますが、病棟では不眠・不穏時指示として入院中に継続されやすく、連用の危険があります。それなら、間違って連用しても大丈夫な量のハロペリドールが安全なせん妄対策です。
 
 注射のベンゾジアゼピンは研修医や不慣れな看護師が使うと重大な事故が起こりかねないため、極力使用しないような薬剤選択にするのもよいでしょう。経口薬の第一選択にされているクエチアピンは、糖尿病の禁忌を啓蒙するのも大事ですが、第一選択には禁忌が少ない違う薬の方が安全で使いやすいという考えもあります。
 

フールプルーフを取り入れた、安全なせん妄対策の例
ハロペリドールは少量に留める
ベンゾジアゼピンは極力使わない
クエチアピンは第一選択にしない

 
「フールプルーフせん妄対策」はそのような考えを推し進めて立てた対策です(**)。採用薬品の違いや、使い慣れているから○○の方が、という場合もあるので、決して"最高の方法"というわけではありません。しかし、この対策の概念はどの病院・現場であっても安全性が高いものとなっていますので、みなさんの日常業務のご参考になればと思います。
 
 

* フールプルーフ foolproof:直訳は「愚か者から守られている」ですが、安全・設計分野では、初心者・慣れていない人が使っても重大な問題が起こらないような安全対策が施されている、誰でも簡単に使える、という意味になります
** 神戸医療センターで使用した107例の調査では83%が対応可能でした。ただ、高齢者が多数を占める一般病棟を主に対象にしていますので、若い人には薬剤の効果として力不足な場合もあります。

 
 

最終更新日2016.2.21