睡眠薬の夕暮れ

よく使われる薬剤ですが...

眠れないときの睡眠薬、この当たり前の光景が、世界では非常識となりつつあります

代表的な睡眠薬(商品名
ゾルピデム(マイスリー)、ゾピクロン(アモバン)、エスゾピクロン(ルネスタ
ブロチゾラム(レンドルミン)、トリアゾラム(ハルシオン)、エチゾラム(デパス)、エスタゾラム(ユーロジン)、フルニトラゼパム(ロヒプノール・サイレース)ロフラゼプ(メイラックス)ロラゼパム(ワイパックス)、ロルメタゼパム(エバミール)、クロチアゼパム(リーゼ)など

 
せん妄の原因、悪化要因に必ず挙げられるのが睡眠薬です。睡眠薬はベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZ作動薬:いわゆる睡眠薬・睡眠導入薬・安定剤・抗不安薬)と言います。
 
睡眠薬は長らく不眠症治療に使われてきています。病院でも、外来から継続していたり、不眠に使用されています。そのため、せん妄に陥りやすい入院患者さんの最後の一押しとなり、せん妄を引き起こすこともよく経験されます
 

世界的には使用制限・規制強化されている

日常よく見る薬剤ですが、近年世界的に依存性などの副作用が問題視されています。
 
この背景には、基本的には不眠症や不安症の治療薬ではなく、精神療法を含む原因治療や他の薬剤を基本に、使用するなら補助療法として短期的(数週以内)に限るとされてきていることがあります1)。また、使用するメリットと副作用のバランスが悪いことから、海外では、数週間以上の使用が禁止されている国もあります。
 
しかしながら、日本ではこれまで広く診療の場面で、「眠れない」「イライラする」に年単位でBZ作動薬が使用されていたり、専門家である精神科でBZ作動薬の多剤併用療法がよくされています。
  

非ベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤も安全ではない

また、非BZ系薬剤(ゾピクロン:アモバン、ゾルピデム:マイスリー、エスゾピクロン:ルネスタ)は安全というイメージが先行していますが、ゾルピデムは依存患者が非常に多いと指摘され2)、また行動異常等も有名な副作用であり、決して通常のBZ系薬剤にくらべて安全とは言いがたい薬剤です。そもそも、非BZ系といっても、くすりの形がBZではないと言うだけであって、作用する部位はBZ系薬剤と同じなため、このサイトではBZ受容体作動薬として同じに扱っています。
 
さらに、BZ作動薬は長期使用において予後の悪化3)との関連や、議論はありますが認知症との関連4)があるのでは、という報告も相次いでいます。
 
日本でも制限の気運が高まりつつあり、今後は使用が縮小されることはあっても、拡大することはないとも言えるでしょう。
 

 
最終更新日2016.2.20



1)Schuttle-Rodin S, et al: Clinical guideline for the evaluation and management of chronic insomnia in adults. J Clin sleep Med, 4:487-504, 2008 
2)松本俊彦. 処方薬乱用・依存から見た今日の精神科治療の課題:ベンゾジアゼピンを中心に. 臨床精神薬理 Vol. 16 2013, 804 (星和書店)
3)Weich S. Effect of anxiolytic and hypnotic drug prescriptions on mortality hazards: retrospective cohort study. BMJ 2014; 348: g1996,
4)Billioti S. Benzodiazepine use and risk of dementia: prospective population based study. BMJ 2012:345: e6231,